「胴鳴り」とは──

秋の彼岸前後に海が鳴り山が鳴る現象。雪が降る前触れといわれる。

江戸時代の随筆家・鈴木牧之の著書『北越雪譜』にその記述がある。

現代では「雪おろしの雷」などと呼ぶ。

イントロダクション

本作は全編8ミリモノクロフィルム撮影の長編映画『阿吽』(2019)で劇場デビューを飾った楫野裕が自伝的要素を織り込んだオリジナル脚本を映画化した長編第2作目となる、親子の血縁という絶対的な関係と人間の根源的な孤独を静謐なタッチで描くロードムービー。

父親役に長年舞台で活躍し近年は映画出演も多数の古屋隆太、娘役に本作が長編映画デビューとなり鮮烈な印象を残す三谷菜々美によるダブル主演。共演者に笹峯愛、稲荷卓央、小原徳子、吉田庸、といった映画界・演劇界の実力派の俳優陣が名を連ねる。

ストーリー

ある年の夏、新潟で生まれ育ち高校を卒業したばかりの西沢光は母・真由美に黙ってまだ会った事のない父に会う為に1人東京へやってくる。父・大森直秀は大ヒットテレビドラマの脚本家として脚光を浴びている。光はかつて恋人同士であった真由美と直秀の間にできた婚外子である。突然訪ねてきた娘に戸惑う直秀だったが、娘の存在を知りながら関わろうとしなかった事に罪悪感を抱いていた。直秀は恋人・沙月とのドライブに光を連れていく。大磯の海岸で3人は束の間の時を過ごす…

数日後、新潟へ戻ったはずの光が再び直秀の前に現れる。母に会って欲しいという光。直秀は助手席に光を乗せて真由美の待つ新潟へ向かう──

出演

古屋隆太(大森直秀

長く舞台がメインだったが、近年は映画出演も増えてきている。

主な映画出演作:『友達にはなりたくない』『息衝く』『At the terrace テラスにて』『浅田家!』『ボディ・リメンバー』『リング・ワンダリング』『his』『かそけきサンカヨウ』。


三谷菜々美(西沢光 役

2001年12月22日生まれ、奈良県出身。女優を志し、9歳で芸能界デビュー後、映画、ドラマ、CM、モデルと幅広く活動。本作の『胴鳴り』が長編映画デビュー作となる。近年では池袋シネマ・ロサで上映された、短編映画『今日もこの世界は平気な顔をしている』(2022) で主演 桑名充希役を務める。また、2024年4月にチバテレミライチャンネルで放送された、短編映画『また来週』(2022)でヒロインの幼馴染 夕華役を務めるなど、夢だった女優として本格的に活躍し始める。そのほかの出演作に、映画『四等辺三角形』(2024)などがあり、映画界で今後の活躍が期待されている新進気鋭の女優である。


笹峯愛(西沢真由美 役

1993年TBS系ドラマ花王愛の劇場「赤い迷宮」でデビュー。NHK朝の連続テレビ小説「あぐり」、TBS「水戸黄門」などのドラマにレギュラー出演する中、バラエティー番組「王様のブランチ」のブラン娘として活躍。eテレの人気キャラクター「ニャンちゅう」の4代目お姉さんとしても親しまれる。

女優業の他に、舞台の脚本、演出、プロデュースなども手がけ、現在はヨガインストラクターとしても活動中。映画出演は、2012年に主演をつとめた「彼女について知ることのすべて」以来となる。


稲荷卓央(沼田幸雄 役

1970年北海道網走市生まれ。1991年に劇団唐組に入団し、多くの作品で主演を務める。2015年以降は映画、ドラマへの出演に活動の場を広げ、現在は唐組と映像作品の双方で活躍中。任侠ものや時代劇の武将、医者などの硬派な役から、嫌味な専務などのコミカルな役まで幅広く演じることができるオールラウンダーな役者。映画「室町無頼*」の撮影で殺陣に魅せられてから、今もなお稽古に余念がない。主な出演作は、映画「漫画誕生」、NHK大河ドラマ「真田丸」、「青天を衝け」、連続テレビ小説「なつぞら」、「ちむどんどん」、パルコ劇場「幽霊はここにいる」他多数。

【*入江悠監督最新作「室町無頼」2025年1月公開予定】


小原徳子(奥野沙月 役

長野県出身、もともと俳優志望であったがスカウトにより2003年グラビアアイドルとしてデビュー。

2008年ピョコタン・プロファイルで映画に初出演で主演、俳優業への転身を図る。

所属事務所の移籍などを経て小原徳子に改名し、数多くの映画に参加している。

代表作は「窮鼠はチーズの夢を見る」や「卍」など。

近年、俳優のみならず「いずれあなたが知る話」では主演を務めるとともに脚本家としてもデビューした。


吉田庸(早川翔 役

1987年大阪府生まれ。2017年より劇団青年団入団。主な演劇出演作は青年団『S高原から』、チェルフィッチュ『部屋に流れる時間の旅』(世界20都市で上演)。近年はNHK『大奥』、WOWOW『HOTEL-NEXT DOOR-』など映像作品への出演や、声の出演も多数あり。今夏配信の日米合作作品の公開も待機中。


スタッフ

楫野裕(監督・脚本・編集)

1978年神奈川県平塚市出身。高校卒業後に地元の仲間と映像制作を始める。2001年NCWの16ミリフィルム実習に参加し自主映画を作り始める。監督作『胸騒ぎを鎮めろ』が2006年PFF入選。以後、映像編集業務に従事しながら短編・中編映画を監督、いずれも高い評価を得る。

初長編の劇場デビュー作『阿吽』(2019年公開)は東日本大震災後の不安を全編8ミリモノクロフィルム撮影で描いた異色作で、国内外で大きな話題を呼ぶ。

『胴鳴り』は長編2作目となる。

宮下浩平(撮影)

1982年富山県生まれ。大学在学中に建築を学ぶ傍ら自主映画制作に関わる。制作グループ第七詩社にて8ミリフィルムによる制作活動を行う。監督作(撮影兼)の『少年と女』(2012年)、『革命から遠くはなれて』(2015年)は共に8ミリモノクロフィルム撮影。

近年は特別養護老人ホーム等、福祉施設の撮影を継続的に行なう中でドキュメンタリー制作を行っている。福井県にあるお年寄りや障がいのある人たちが集うデイサービスいっしょ家の日常を追った、初長編監督作品『いっしょ家』(2023年)が東京ドキュメンタリー映画祭2023 長編部門コンペティションにて観客賞を受賞。

楫野裕監督作品の撮影は前作『阿吽』(2018年)に続いて二作目となる。

河野英(音楽)

東京都出身。『胸騒ぎを鎮めろ』(2006)『Say Goodbye』(2009)『同僚の女』(2009)『阿吽』(2019)といった楫野裕監督作品のほぼ全ての音楽を手掛けている。

弥栄裕樹(サウンドデザイン)

1976年大阪府出身。99年頃より関西アンダーグラウンドのバンドシーンで創作活動開始し、録音技師・sound designerとして幅広く活動。主な参加作品として、『まんが島』(17/守屋文雄監督)、『れいこいるか』(19/いまおかしんじ監督)、『ソワレ』(20/外山文治監督)、『海辺の彼女たち』(21/藤元明緒監督)、『うみべの女の子』(21/ウエダアツシ監督)、『マイスモールランド』(22/川和田恵真監督)、『夜を走る』(22/佐向大監督)、『窓辺にて』(22/今泉力哉監督)『エゴイスト』(23/松永大司監督)『二人静か』(23/坂本礼監督)などがある。

THE NOUP(楽曲提供「Monochrome Dead」)

2013年より現メンバー岡田高史(vo,dr,syn)、矢野駿典(gt,per)、清原基之(ba,syn)で活動開始。楽曲は主に反復するドラム、ギター、ベース、シンセサイザーで構成される。これまでに3つのカセットテープ、EP『PARADE』(7")、1st  album『Flaming Psychic Heads』(CD)、2nd album『Nexpansion』(CD)を自主リリース。1st albumのリミックス集『THE GOUP』を<GORGE.IN>よりリリース。<Call And Response Records>、<Deaf Touch Records>のコンピレーションに参加等。
https://thenoup.com/

第七詩社 The 7th Poetry Society

有志のメンバー6名からなる自主映画製作グループ。2012年に東京で結成。これまで、伊東知剛監督『風下の歌、川上の虹』(2016年/ロンドン・レインダンス映画祭入選)、楫野裕監督『阿吽』(2019年/吉祥寺アップリンク等で公開)、仙元浩平監督『逝く夏の歌』(2021年/新宿K’sCinemaで公開)、宮下浩平監督『いっしょ家』(2023年/東京ドキュメンタリー映画祭観客賞)等を製作・上映している。現在、仙元浩平監督の新作を製作中。
https://dai7.org/

 

コメント

相田冬二(Bleu et Rose/映画批評家)

黄色い車が走るとき、過去が未来に連れてゆく。

黄色い車が停まるとき、現在(いま)が過去に幽閉される。

黄色い車が走るとき、未来が現在(ここ)に反撃する。

『胴鳴り』は想い出が人生を逆走させる、特殊な情緒のかたまりだ。

安藤尋(映画監督)

これは楫野裕監督が描く「家族の肖像」だ。その肖像は、はかなく、悲しく、滑稽で、残酷だ。娘を演じる三谷菜々美が素晴らしい。彼女の真っ直ぐに開かれた目は、愛されないことを、愛することを、そして、愛せることを、その残酷な肖像のなかに見つめている。

井土紀州(映画監督・脚本家)

楫野裕と宮下浩平(撮影)のコンビは、映画史からの大胆な引用で見る者を驚かせる。前作『阿吽』ではカール・ドライヤーを。本作では溝口健二、宮川一夫の『雨月物語』を、ここ一番の芝居場で抜け抜けと引用してみせる。その瞬間、映画は古典の風格を漂わせる。

伊藤洋司(中央大学教授)

新潟の覆道も胴鳴りも素晴らしいが、夜道の自動車には本当に驚嘆した。全ての場面に仕掛けがあり、21世紀に入って急速に失われた何かがこの映画には詰まっている。楫野裕は近年の最も挑発的な日本映画を撮ることに成功した。

大島新(ドキュメンタリー監督)

なんだかヘンテコだな、と思いながら観ていたら、いつの間にか惹き込まれていた不思議な映画。ふいに息を飲んだり、ぐっと心をつかまれたり。なぜだろう。もう一度、観てみたい。

阪本順治(映画監督)

そばにいれば、互いに想いを一つにできるわけでもなく、遠く離れているからといって、互いに想いが疎遠のままになるわけでもなく、そんな、微妙で、答えのない日々を、主人公は、送っている。この作品は、ひとは、いつも旅の途中であり、彷徨いながら誰かを求め続けることが、人生であることを教えてくれる。

渋谷哲也(ドイツ映画研究・日本大学教授)

冒頭、夜の高速を走る車窓の風景とオフビートの音楽だけで

映画の世界に一気に引き込まれた。

主人公である脚本家の男も地方に住む娘も彼らと関わり合う人々も、おそらく全員がバラバラで孤独なのにどこか響き合っている。それはカットがつながっていないのに物語が連続している不思議な感覚とも似ている。

『胴鳴り』というタイトルが謎めいた距離感を生み出しているが、そこには密やかな共鳴が含意されているのかもしれない。

とてもいい映画を観た。

田村千穂(映画批評家)

魅惑的な、黄色い車で海までドライブ。安全運転のように端正な前半を過ぎると、映画は恐るべきギャグと不穏さを導入し私たちをおびやかし始める。幽霊も宇宙人もすれ違う電車と電車もこれまでに見たことのない鮮烈さで姿を現すだろう。そしてキュートで緻密で大胆きわまりないラスト! 楫野裕の力作『胴鳴り』に瞠目されたい。

三宅隆太(脚本家・映画監督・スクリプトドクター)

2020年を機に、変わりなく続くと思われていた日常習慣を唐突に問いただされたひとは多いだろう。

無論、私もその1人だ。

 

不安や恐怖、戸惑いや焦燥……。

交互に押し寄せるそれらの不快情動は、だが同時に過去が生み落とした決めつけや思い込み、逡巡や迷いを未来へと紡ぐ静穏への道しるべでもあった。

 

楫野裕待望の新作『胴鳴り』も、まさにそんな道しるべたる希有な映画である。

 

突如現れた見知らぬ実娘とのロードムービーという切り口を通じ、無機質でスタイリッシュでありながら既視感のある通俗性とのはざまを行き来するエピソード群に加え、

ある種アンバランスともいえる抑制と促進の対比が生む俳優陣の調和を積み重ねることで、我々を「終点の見えない迷い道」へと誘い翻弄する。

故に鑑賞中、不安や戸惑いは勿論、場面によっては焦燥や恐怖に近い情動をすら呼び覚まされていく。

 

だが物語が行き着く先、そこに拡がる景色はとても美しく、一片の迷いもない。

そして我々誰しもが「終点が見えないからこそ価値のある一本道」に立っていることを、

だからこそ「人生という乗り物のアクセルを踏み続けることに意味がある」ことを改めて気づかせてくれるのである。

 

劇場情報

東京(渋谷)

03-5766-0114

2024年6月22日(土)〜7月5日(金)


栃木(宇都宮)

2024年7月5日(金)~7月11日(木)


大阪(十三)

06-6302-2073

2024年7月13日(土)~7月19日(金)


クレジット

古屋隆太 三谷菜々美 笹峯愛 稲荷卓央 小原徳子 吉田庸

あらい汎 ばんこく 谷英明 小倉百代 平川はる香 青木ルーカス 井神沙恵 正村徹

CARLO KODAIRA シーラ Lyo Ponja 功次郎 詩野 大嶋丈仁

佐藤一輝 佐藤麻美 佐藤羊 並木陽児 久保田裕子 バンジ ヤスオ ANSWER 岡野こずえ 飛鳥龍一 入江道晴 小野美海 河合美岐子 小島里奈 佐久間晴子 澤奈津樹 志武明日香 辻こう義 富美 西田優理香 ヒコ 藤沢光 松岡希実 三木理恵子 與那覇実 風間賢一 春原幹司 OnokUro 勝山彩香 ターHELL穴トミヤ CHIYORI 泥鶴(BLYY) DMJ (BLYY) 中島なな子 ノブミ BAN(THE TENGS) 町田高志 水野愛子 Mazlika 重田昌俊 山藤大吾 太田朝也 太田友美 我妻譲 清田裕子 楫野敬 蓑浦誠 中島雄太 aimi KuRi 鈴木司  ラジオの声:平川はる香

 

撮影:宮下浩平  撮影助手:東知剛  照明:平木慎司 倉林和泉 鈴木聡介

録音戸根広太郎 鈴木一貴 城野直樹 喜多村朋充  美術・装飾尾崎香仁

ヘアメイク監修瀬戸口清香  ヘアメイク進行北崎実莉 三輪千夏  高橋奈央

助監督齋藤成郎  制作デスク仙元浩平 仙元志保美  制作進行光永惇 山崎優

車両植田拓史 大嶋丈仁 光永琴恵  スチール・メイキング撮影倉林和泉  応援佐藤一輝 榎本圭祐  合成尾崎香仁

サウンドデザイン弥栄裕樹  音楽河野英  劇中使用曲「MONOCHROME DEAD」THE NOUP 作詞:Takafumi Okada 作曲:THENOUP

撮影協力ハムサンドスタジオ plateaubooks 日比谷公園 神保町ブックセンター 珈琲館&サルーン騎士道 中野heavysick ZERO サウナ&カプセルホテル北欧 鎌倉N邸 大磯海水浴場 hypermix門前仲町 ららん藤岡 ホテル公楽園 NORMAN東松山 石地海水浴場 海の家見晴荘 喫茶スナックふらんく SAD CAFE 魚きん 小穴家 光永家 宮下家

劇用車:いすゞスポーツ  キャスティング協力大木萠  キストラ協力オフィス・オーパ

協力:楫信子 木村文洋 児玉和土 鈴木雪香 高橋和博 中村友則 野崎芳文 福士結花里 宮坂なみ

宣伝美術Ullah  Special Thanks鈴木牧之「北越雪譜」  助成AFF2

企画・製作:第七詩社  配給ALFAZBET

監督・脚本・編集楫野裕

 

2024年/日本/カラー/16:9/5.1ch/110分/PG12

ⓒThe 7th Poetry Society